『風のクロノア』開発日誌


この文章はソニーマガジンズ刊『HYPER プレイステーション』に掲載されていた記事を
書き出したものです。



風のクロノア開発日誌 1回目
文責:ナムコCS開発部 吉沢秀雄

 この文章は、編集部の依頼によってナムコCS開発部の『風のクロノア』ディレクターである吉沢秀雄氏による“開発日誌”です。日誌というからには連載を前提としており、来月以降も様々な内容でお送りする予定。今回は、クロノアがどのような過程で生み出されたのかをテーマに書いていただいた。

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「ある男がなぜか陶器のようなものでできたロボット型の人形になってしまい、自分をとり戻す冒険に出る」
初めはこんな、ダークでシリアスなストーリーを考えてました。これはこれでかなり画期的な設定とストーリーをもった企画だったのですが、それを進めていくうちにプレイステーションの市場も活性化し、多くのソフトが発売されました。それらの作品群を眺めていると、ダークでシリアスなゲームが多いのに気づいたんです。悩んだ末、やっぱりナムコは今、世の中にないものをつくらなくちゃダメだ!と思い、基本のシステムのみ残して全部変えようということにしました。そこで開発部内でこのゲーム性に基づいたキャラクター募集を行ない、その中から選ばれたのがクロノア。また、このときの応募の中に「夢を送り込んで膨らませる、すなわち夢膨らませる」と書いてきたものがありました。そこで、忘れられた夢のエネルギーによってつくられた世界、という昔考えた設定を思い出し、ファントマイルを「現実にあるものが形を変えて存在する世界」にしようということに決めたんです。例えば、木の実の形をした家とか。
 連日、グラフィックスタッフの間で世界設定のためのアイデア会議が行われました。同時に、ゲーム性やトラップ、仕掛けなども決まっていくのですが、これも世界の設定と無関係ではありません。時にはトラップに合わせて設定を変えたり、逆に構造物のアイデアから仕掛けを考えたり。こうした設定は企画、グラフィックのみならず、プログラマーやサウンドのスタッフにも関係があります。また、彼らからの提案などもあるし、その都度設定とうまく融合する方法を考えながら入れていくというように進んでいきました。こうしてスタッフがこの世界に対してどれくらい思い入れられるかということが重要なんです。企画者ひとりが考えうるものなんて所詮微々たるものですから。
 アクションゲームで、プレイヤーに目的を示すものとして、ストーリーは以前からあったと思うのですが、それは「お姫さまがさらわれたから助けてこい」「ははぁ」とか「世界の危機を救うのだ」「ははぁ」といった簡単なものでした。ぼくは、どうもそれが納得できなかった。だって急に「お姫さまが〜」とか「世界の危機を〜」といわれても「ははぁ」という人なんていませんよ。「なんでオレが? 隣のこいつじゃなくてなんでオレなんだよ!」って思うんじゃないか。やっぱり冒険に出るにはそれなりの動機ってものがなくてはおかしいんじゃないか、と思うわけです。しかもその途中で出会う人々はそこで生きている人々なわけですから、それぞれの事情もあるし、思惑もあるはず。しかもゲームである以上、それらがゲームにかかわってこないとダメだと思うんです。
 この『風のクロノア』も、スタッフのありったけの情熱を込めたゲーム性や仕掛け、ストーリーや設定を最高の形で結実できるように、今日もスタッフ一同、遅くまで頑張っています。期待してください!


風のクロノア開発日誌 2回目「スリリングなクロノアの世界」
文責:ナムコCS開発部 吉沢秀雄

 第2回目となったクロノア開発日誌。今回もまた、本作開発ディレクターであるナムコの吉沢氏による原稿をお届けしよう。前回の開発秘話とはガラっと代わり、今回は作者自らが語る『風のクロノア』の核心に迫る内容。単なる子供向けゲームではないという本作のねありと、作品に隠された2面性を知ってほしい。

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 読者のみなさんの中には「このゲームは子供向けの内容だろう」と早とちりして、自分には関係ない代物だと思ってる方はいませんか? ファンタジックな背景にコミカルな敵キャラクターを見たら、確かにほのぼのとしたのんびりテンポのアクションゲームを想像するかもしれません。
 だとしたら、それは間違い。本作は子供たちや、あまりゲームになじみのない女性の方にも楽しんでもらえるよう親切につくることを心掛けていると同時に、アクションゲームファンのみなさんにも十分やりごたえのある仕掛けが施されているゲームなのです。ちょっと上達してきたら、見ている人の目もひきつけるほどダイナミックなアクションが楽しめるはず。11月中旬にソニーから配布される「よい子とよいおとなの体験版」に最初のボスクリアまで遊べるものが入っていますので、ぜひ一度プレイしてみてください。クリア後には上級者向けのお楽しみも用意してありますので、がんばってクリアしてください。
 また、もうひとつのお楽しみであるストーリーについても、子供にはクロノアの冒険譚として楽しめて、なおかつ、おとな向けの深い意味を持った内容を含んでいます。もし今、子供がプレイすれば単純に楽しかったと感じてもらえるでしょう。そして、その子がおとなになってからもう一度プレイしたら、昔は見えなかった「深い部分」に気がついて、別のストーリーとして接することができる……そんなものを目指したつもりです。ちょうど童話がそうであるように。
 クロノアはある日、夢に見たのと同じ光景に出会い、好奇心に駆られて「いってみよう」と冒険に旅立つのですが、これに端を発して、彼は運命の渦に巻き込まれていきます。
 ゲーム前半は、この好奇心による少年の冒険旅行にすぎません。ここまでは雑誌の記事ですでに公開されているところですが、このあと、ある事件を境にゲームの雰囲気はガラリと変わってしまいます。(BGMもこのストーリーの展開にあわせて変化していかなくてはならず、結果的にアクションゲームとしては破格ともいえるおよそ60曲ものBGMが入っています。これは必聴ですよ)
 ゲーム後半は「宿命」のようなものに引っ張られて、次々とストーリーは進んでいきます。3000年の月日によって人々の記憶から忘れられた世界の謎と、闇なる王ガディウスの企みと手下ジョーカーの暗躍によって解明されていくのを縦軸に、ヒューポーの秘密やクロノアに秘められた真実が明らかになっていく。ここから物語は、かなりシリアスな展開へと変わっていきます。そして感動のエンディングは、涙なくしては見られない、とってもいいものに仕上がっています。スタートボタンを押した瞬間からクロノアの世界にどっぷり浸って、感動のエンディング目指してぜひとも頑張ってください。
 また、感動のエンディングを迎え、すべての秘密を知ったとき、もう一度プレイしてみてください。すべてを知っているからこそ気づくオモシロさが、ゲームのあちこちに見えるはずです。
 お楽しみに!!!


風のクロノア開発日誌 3回目
文責:ナムコCS開発部 小林毅

■アクション部分について……妥協を許さない新しさの追求

 アクション部分は最初に「敵を利用してテンポよくマップを攻略していくゲームをめざす」ということを決めました。しかし、それを実現するのにいろいろと試行錯誤を繰り返しています。
 最初のクロノアは、2段ジャンプができなかったのです。そのかわり、持っている敵を目の前に「置く」ことができました。しかも△ボタンを押して置かせていたのです。しかしこの仕様ではテンポが悪く、最初に決めたコンセプトには合いませんでした。販売部にもクロノアを見せる機会があったのですが、この時点での反応もよくありませんでした。はっきり言って焦りました。
 販売部から開発部に帰る電車の中でいろいろと考えて、考えて……そこで今の2段ジャンプの原型を思いついたのです。
 早速スタッフに話し、一緒に考えてみた結果「コレはいけるかも!」という手応えがあり「置く」仕様から「2段ジャンプ」の仕様に変更しました。操作も△ボタンをなくし、ふたつのボタンで遊べるシンプルなスタイルをとることができました。
 さらに、坂道では移動速度を速めることにし、大きな耳で滑空できるようにする……など、緩急のついた動きのバリエーションを増やしました。こうして、ようやく今の形に落ちついたわけです。

■マップ構成、ギミック……3Dの楽しさとゲーム性の両立

 今までの2Dのアクションゲームをつくるような感覚を残しながら、立体空間で楽しめるゲームをつくる……これが「風のクロノア」の始まりであり、基本コンセプトでした。
 当然、マップの構成、ギミックなどのアイデアも上記のコンセプトに基づいてスタッフ内で検討し、制作しました。そのとき私が重要視していたポイントは「空間を把握しづらい」「操作しにくい」などの、3Dゲームにありがちな「遊びにくいゲーム」には絶対にしないというものでした。カメラアングルを次々と変化させると見た目には新しくカッコよいものになると思いますが、肝心のゲーム性は薄くなってしまうように思うんです。そういった見た目だけのゲームにはしたくなかったんです。しかし、あまりに2Dのゲーム性だけに固執してしまうと、世の中にたくさんあるアクションゲームの感覚となんら変わらないモノになってしまいます。私としてはその間の線を狙いたかったんです。「遊び」も「見た目の新しさ」も大切だと思いますから……。
 そういった意味でクロノアは、3Dのゲームですがとっつきがよいと思いますので、ライトユーザーにも楽しめるゲームになっています。
 また、かなり遊び慣れたころにもうひとつの遊びが出現しますので、そちらのほうでもぜひ楽しんでほしいと思います。きっと面白いですよ。




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